がんの実例

高齢者のがんの話(1)

神田広太郎さんは八十三歳。高校の教師を永く勤め、校長を最後に退職して、今は夫婦二人の静かな生活を楽しんでいた。

一九八六年十月、血尿に気付いた神田さんは国立がんセンター中央病院泌尿器科を受診した。

すぐに実施された膀眺鏡検査で、小豆大の腫瘍が三個確認され、表在性膀眈がんと診断された。

表在性膀眺がんは膀脱内にいくつも発生することが多いけれども、がんとしてはおとなしく、生命に対する危険性は低い。経尿道的切除術といって、内視鏡を尿道から膀眺に挿入してがんを切除する手術をすれば良いでしょう一と担当のF医師より説明された。

神田さんは「がんとしてはおとなしい性質だ」という説明から、F医師に相談をもちかけた。

「実は家内の美子が八十歳なのですが、心筋梗塞の疑いでいま近くの病院に入院して検査中です。私の病気に多少余裕があるのなら、家内の病気を優先してしばらく付き添ってやりたい。

子供達は独立し、夫婦二人きりの生活ですので……一

そこで奥さんの病気が一段落したところで神田さんの治療をすることに話がまとまり、神円さんは人院予約をして帰宅した。

それから約一カ月後に、美子さんは薬物療法を受けながら退院してきた。身の回りのことは自分で十分できることがわかったので、神田さんは今度は自分の番と考え、F医師に電話して事情を説明し、これからはいつでも入院できることを伝えた。

正月が明けるとすぐ神田さんは泌尿器科病棟に入院し、数日後、腰椎麻酔下に膀眺がんの内視鏡切除術を受けた。

 

治療後数日間は薄い血尿が続いていたが、尿道に入っていたカテーテルが抜き去られ、「病理所見も予想どおり、おとなしい表在がんでした」という説明を受けて術後一週間で退院できた。

退院前日、F医師からはの種のがんは生命にただちに影響する危険性は少ないのですが、膀眈内の別な場所に、時間をおいてまた同じようながんが発生することが多いので、術後一年間は三カ月ごとに、その後は間隔をのばしながら少なくとも五年間は膀洸鏡検査と尿細胞診検査を定期的に受けて下さい一と再度説明された。

一九八八年二一月、定期検診の膀眺鏡検査で米粒大の小さい腫瘍が四個新たに発生していることが発見された神円さんは、今度は外来でBCGの膀洸内注入療法を受けることになった。

「結核の予防に使われるBCGの生きた菌を生理食塩水に懸濁して膀眺内に毎週一回、全部で六―八回注入すると、身体の免疫活性が上がって小さい腫瘍は消えてしまいます。

排尿痛や頻尿といった膀眺の刺激症状や血尿など副作用も強いので注意しながら実施しましょう」との説明だった。

その日から週一回、外来に通ってカテーテルを膀脱内に挿入し、カテーテルを介してBCGの懸濁液を注入し、その後約二時間排尿を我慢するだけ、という簡単な治療を受けた。

四回以降、注入後に排尿の回数が多くなったり、残尿感、微熱が約一口出るといった副作用が現れたが、無事に予定のコースを終えることができた。

しばらく間を置いて膀眺鏡検査を受けると、一腫瘍はことごとく消滅していますが、粘膜に赤い部分が新たに認められること、尿細胞診の陽性が続いていますので、もう一コース、BCG注入療法を続けていただいたはうがよいでしょう」とF医師から説明を受けた。

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